2009年11月14日土曜日

なわばりとオルカ

人間を含む多くの生き物には「なわばり」という個体あるいは種が生きる上での一定の空間領域が存在する。これによって「いのち」が保たれバランスがとれていることも事実だが、その、なわばりがもとで起きる「争い」が繰り返されているのも、また事実である。

ところが、この「争い」をまったくしない生き物がいる。それが「鯨類」である。野生のオルカを、国の援助にも頼らず私財を投げ打って観察・研究しているカナダのポールスポング博士によれば、その代表が「オルカ(シャチ)」だという。




母親を中心に家族、親戚、氏族が適度な関係を保ちながら社会生活を営んでいるオルカには「共同で営む」行為はいくつか見られるものの、「争う」という行為は全く見られないという。海の食物連鎖の頂点に立つオルカにとって、もちろん餌は魚ばかりではなく、時にはアザラシなどを食餌のために必要最低限の数で捕獲することはあっても、他のオルカのグループを襲ったり、人間を襲ったりという記録も観察が一切ないという。

オルカなど大型の鯨類の生活環境は、実は地球全体つまり海が一つの生活圏であり、なわばりはない。「争い」を避けるためなのか種の保存のための知恵なのかは分からないが、生活の仕方には3つほどのパターンがある。ひとつはレジデントと呼ばれる主として魚を主食とし、プランクトンの豊富な内陸に近いところで比較的定住して暮らすグループ、2番目はトランジェントと呼ばれ、広大な海を餌を求めて広範囲に移動するグループ、そしてオフショアと呼ばれるある海域の沖合を中心に生活するグループである。

それぞれが、独自の食餌方法や繁殖方法を持ち、環境に馴染みながら高度な社会生活を送っていることが最近明らかにされている。どの型に属していても「争い」は起こさず、むしろ譲り合いの精神でコミュニケーションをとり、ときには離れ、ときには集まって食餌と繁殖のバランスを保っているという。

譲り合いとおもてなしをその生活の基本としていれば、おそらく「争い」は起こらないのではと、オルカなど鯨類の社会生活を知るたびに思う。

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