2017年4月28日金曜日

折り紙建築

故・茶谷正洋先生が東京工業大学の教授をされていた時に考案された「折り紙建築」は、当時、私が早稲田大学の建築図法の授業を担当していた時に取り入れたい課題の一つでした。カリキュラムの改訂のために実現はできませんでしたが、ずっと憧れていたところ江副育英会の奨学金の審査員を頼まれた時に一緒に審査を担当されていたのが茶谷先生でした。

10年ほど毎年審査会でお目にかかっていたのですが、ある時、「渡辺くん、こんなものを作ったからあげるよ」と言われてくださったのが、先生の直筆のサイン入りの折り紙建築で作った「横浜クイーンズタワー」とお台場の「フジテレビ社屋」でした。その後、私が大学を退職する時まで研究室の机の前に展示してありました。

横浜クイーンズタワー
フジテレビ

石垣子ども未来大学の課題を考えていた時に、真っ先にやってみたかったのが、この折り紙建築です。茶谷先生がこれを思いついたきっかけは年賀状の版画に飽きて、何か面白いことができないかと考えていた時に、賀正の「賀」の漢字をポップアップカード形式で立体的に作って写真に撮り、それを年賀状にしたところ評判が良かったので、それを建築物でやってみたらどうだろうというのが最初だったようです。

茶谷先生の直筆サイン


紙を「きる」そして「おる」ということの意味やプロセスを再現するために、私も一から始めてみました。たった一枚の平面の紙から無限の立体が生成できることを再認識し、キッズユニバーシティの一番の狙いである「自分で作って感動すること」には最も適した課題になると確信しました。平面図と立面図が一枚の紙に同時に存在し、さらに現実の建築空間をいかに抽象化してそれらしく見せるかという空間認識や空間把握がしっかり身につくような気がします。

一枚の紙から立体建築へ

さらに、ひたすら細かい線を切る、あるいは紙を線に沿って半分の厚さだけ切るという作業が、集中力や持続力を鍛えることができるし、折るという作業が指をバランスよく動かす必要があるので、子供だけではなくて高齢者にこそ楽しく指先と脳を鍛える訓練になるのではないかと思います。

たくさんの建築パーツに部材を分けて切り離し、それをボンドで貼りつけながら全体を作っていくという建築模型の作り方とは全く違う発想で、平面と立体との間を行き来できる「折り紙建築」は、無限の可能性があるような気がしています。茶谷先生から託された課題を、いま島の子どもたちと共有できることを感謝しています。

2017年4月9日日曜日

おる・つつむ

折型デザイン研究所の山口さんからいただいた研究報告「つつみ の ことわり」は、江戸中期に伊勢貞丈によって書かれた贈進の際の包みと結びの礼法「包の記」と「結の記」を現代風に読み解いた書物なのですが、礼儀作法としての我が国独特の「折り」のこころを、石垣島の子供未来大学で伝えられないかと試みています。


この中に、のし袋などについている「紙のし」の原型である熨斗鮑包に関する解説があります。その展開図と手順に従って自分で折ってみると、進物に熨斗鮑を添えることが江戸時代には一般化していて、それが形骸化といえども今日まで脈々と続いていることに日本人のこころの置き方の一端をみるような気がします。

伊勢貞丈の「包の記」には、こう書かれていると山口さんが現代語に解釈されました。
「熨斗鮑を包む事。当世の進物では、必ず魚鳥の類を添えるのが、祝の心を示すこととされている。魚鳥を添えない時は、干し肴あるいは熨斗鮑を、百本千本添える。略する時は、熨斗鮑二〜三本を切って、これを紙に包んで添える。(後半略)」とあり、その後、折り方の展開図と完成図が示され解説が書かれています。

矩形(1:√2)の対角線に正中して斜めに放射状に紙を折進んでいく時、神が紙の中に込められ、送る相手への思いと正面から向き合う気持ちにさせられ、礼法の深い意味合いを感じました。この熨斗鮑包の次には、手順は似ているものの、陰と陽の関係にある折型の木の花包みが解説されていて、一枚の白い紙を折ることで光と影がアートのように現れてくる美しさを堪能できました。

左が熨斗鮑包で、右が木の花包