2009年5月17日日曜日

[再掲]年頭のごあいさつ

昨年後半に「アンビエント社会」における建築の役割ということを、渡辺仁史研究室の研究背景としてとらえておく必要があることをお話ししました。


アンビエント社会あるいはアンビエント情報社会とは、「今だから、何処だから、貴方だけ」を実現するというコンセプトのもとに、生活の中にICTが自然に溶け込み、必要なときにコンピュータの方から人間に働きかけ生活をサポートしてくれるような社会の実現を目指しています。


そのような社会に建築分野からアプローチしていくためには、人間の生活に関する膨大なデータベースが必要であり、これまで我々の研究の蓄積がその中核になることは間違いありません。そこで、今年は原点に戻ってこれまでの研究の独創性や成果を整理体系化しておくことが重要です。


新しい社会の到来やその変化に敏感に対応していくことも研究室の目標のひとつですが、先端的な追求をする一方で、研究室の設立当初から変わらない研究思想を確認しておくことも大事だと思います。


それは、「動く」ということです。


時間の経過、場所の移動、状態の変化など、その捉え方はさまざまです。


建築や都市のデザインプロセスの中で、その利用者の視点に立つことは、まぎれもなく生活という日々動いている人間の行動を設計計画の評価の指標とすることであり、そのためにはまず人間の行動を知ることから始めなくてはいけないということで、建築分野における「行動」研究がスタートした訳です。


「動く」もの、あるいは「動く」ことを知ることは、そこに「時間」という4次元のファクターが入り込むということであり、従来の設計図書では表現できない新しい評価軸を導入するということでもありました。


建築や都市空間で「時間」を把握するために、さまざまな指標が使われてきました。時間とともに「数」が変化することをとらえるために「断面交通量変動」が、時間とともに「位置」が変化することを記録するために軌跡図が、時間とともに「状態」が変化することを記述するために数学のオートマトンが適用されるなど、定量的、定性的に表現してきました。


そして、これらの結果を建築の設計に生かすためには、設計案を「動く」という視点から評価できるモデルを作成することが必要です。そして初めて、先の時間が読める、新しい空間で人々がどうやって動くかをあらかじめ予測することが可能になります。


そのためには、膨大な行動調査のデータの中から「変化」をとらえること、すなわち、動きの履歴の中に共通するあるいは特徴的なルールを見つけ、その行動特性を解明したうえで、そのルールを汎用的なモデルにするというのが、これまでの研究のアプローチでした。


このような視点からのアプローチは、様々な成果を生みました。


具体的には沖縄海洋博覧会の会場構成や施設配置計画への適用、超高層建築からの避難安全性の客観的な評価、明石歩道橋での群衆事故の原因解明、MoMA美術館での回遊動線への提言、葛西臨海水族園での水槽配置計画への適用、鉄道駅コンコースでの群衆誘導、さらに百貨店におけるイベント開催時の来客誘導への適用など、主として不特定多数の人が集まる施設での人間の「動き」の評価に使われ、施設計画の見直しや新たな対策が立てられるなど有効に活用されてきました。

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